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要旨
「日系」から開かれたニッケイへの進化が著しい場の一つとして、もともとは日系子女の言語・文化教育の場であった「日本語学校」があげられる。カナダにおける日本語学校を舞台に進化するニッケイのすがたを紹介しよう。
  
カナダで日系子女のための日本語教育が始まったとされるのが1902年。またカナダで最初の日本語学校がバンクーバー旧日本人町にたてられたのが1906年。100年の歴史を誇る日本語教育は時代の社会・政治的要請を受け、変遷を遂げている。
  
とりわけ1980年代以降の特徴としてあげられるのが学習者の多様化である。日本経済の高度成長が世界的に注目されはじめたころからバンクーバー地区の日本語学校の数が増加し始めた。それと呼応して、日系人社会でも日本語教育への関心が高まっていった。1985年頃から目立つ傾向としては、国際結婚をした新移住者家庭の子弟や、日本語の話せない両親を持つ日系三世・四世の子弟、そして非日系家庭からの子弟が増えたことである。つまり日本語が家庭の中で使用されていない家庭の子供が増えたということだ。この現象に伴い、日本語学校の在り方が日系子弟のための継承語教育の場というだけではなく、ひろく日本語・日本文化に関心あるカナダ市民のための語学教育機関という性格を持たざるを得なくなった。継承語と国際語としての境界線も昨今では曖昧になり、これに対し教授法も外国語としての日本語、継承語としての日本語という二本立てカリキュラムを導入している学校も多い。1990年代はじめに日本はバブル経済の終焉を迎えるに至るが、それとともにカナダ全体では継承語しての日本語教育の一大転換期を迎える。戦後移住者子弟が成人したことから、日本語学校に入学する日系子女の人口が激減した。日本経済の衰退により、日本語教育に対するカナダの公的機関からの助成金も激減した。この二重の痛手により、経営困難に陥った日本語学校も少なくない。しかしながら、最近になり学校数は増加しないまでも、日本語学校に在籍する生徒数は減るどころか、やや増加の傾向にある。特にバンクーバー地区はBC州日本語教育振興会の調査では、規模の差はあるが、現在十四校が運営されている。同会の2000年の調査では、約1400人が日本語学校に在籍している。なぜバンクーバーの日本語学校は様々な歴史的社会的試練に耐え、その生命力を維持しているのだろうか。まずは非日系アジア系カナダ人子女の間で、日本発信の子ども・若者文化が浸透していることが挙げられる。台湾や香港から親世代とともに幼い時にカナダに移住してきた子どもたちにとって、日本の漫画、アニメなどは非常に親しみ深いものである。むしろ、北米発信の英語中心のまんが、アニメなどより心理的に近いものを感じるらしい。幼いころから親しんでいたまんがを原語で読めるようになりたい、アニメ、日本のテレビドラマ、日本のポップ音楽の歌詞を理解できるようになりたいといういわば、純粋な日本語学習に対する動機から日本語学校に入学してくる子どもの数は半端ではない。また、受入側である日本語学校も日系でないからと拒絶するのではなく、反対に歓迎をし、受入体勢を整えた。つまり、家庭で日本語を使わない環境にある生徒には外国語としての日本語プログラムを提供する。この非日系生徒の存在はある意味で日系生徒にあらたな日本語学習に対する動機づけともなる。日系バックグランドといっても、どちらかの親が日本人であるいわゆるハーフやダブルの子どもが増加している現在、その子にとっての心理的な居場所になっているのが日本語学校である。両親ともに日本人のケース、あるいはどちらかの親が日本人のケース、いずれにしても同じような家庭環境にある子どもが日本語学校には多い。それゆえに、特別説明をしなくても食生活を始めとするライフスタイルが共通しており、また日本語学校は通常幼稚園から少なくとも6年生までは継続して通うので、長期的な友人関係を育みやすい。戦前・戦後を通じてバンクーバーの日本語教育は変化の途を経てきている。日本語が単に日系子女のものではなくなり、日本語学校が日本語、日本文化に関心を持つ子どもたちを広く受入れる状況があるなかで、今日の日本語教育は「日系」から開かれたニッケイへの進化の様相を具体的に呈示している。


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